★★☆☆☆
塩田武士 著。グリコ・森永事件をモチーフにした作品。ものすごく評判がよく、文庫化を心待ちにしていて、発売が決まった途端に予約しました。というわけで、期待が高すぎたことも影響したかもしれませんが、結論からいうとあまり楽しくありませんでした。
駄作とは思いませんが、結構不快でした。二人いる主人公の一人が新聞記者なんですが、その言動が昨今の「マスゴミ」の行動と被ることが多くて……「終わらせてはいけない事件」という薄ら寒い偽善を口にして取材対象に迫っていく姿に特に不快感をおぼえました。いや、お前ただ会社と上司の言いなりになってるだけだろ、と。
もうひとつは創作としてのだるさ。ラノベ二冊分くらいの間、特に何も起こりません。
その代わりといっていいのか、ラストは怒濤の展開になります。しかしそれはそれで、「数十年未解決だった事件の関係者が、そんなに簡単に口を割っちゃうの?」という違和感が発生します。結局、現実性と創造性の間で揺れ動いたあげく、よくわからないところに着地してしまった作品だと思います。
最後にとってつけたような感動シーンがありますが、冷静に考えるとそんなもんじゃ取り返しがつかないくらい、事件の関係者の生活は悲惨になっているわけで。そこにも首をかしげざるを得ませんでした。
この事件を題材にした作品や、ルポ、ドキュメンタリーの類いをあさってきた人にとっては「何番煎じだ……」と思える内容なのもマイナス。
ただひとついいところは、さすが元新聞記者といっていいのか、文体にクセがなくて非常に読みやすかったです。
そういえばこの作品、映画化が決まっているそうですが、「在日韓国人と左翼による犯罪」というのは改変されずにそのまま使われるのか気になります。